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大阪地方裁判所 昭和29年(わ)1590号 判決

被告人 都島自動車株式会社 外一名

主文

被告会社を罰金百五十万円に

被告人高士政郎を罰金三十万円に

各処する。

被告人高士政郎において右罰金を完納することができないときは金三千円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

訴訟費用は全部被告会社の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告会社は本店を大阪市都島区高倉町四丁目三十三番地に置き一般貸切旅客自動車運送事業、自動車及び部分品の売買加工修繕並に燃料其他附属品の売買、これに関連する事業に対する投資及び金融等これに附帯する一切の事業を営業目的とする資本金七百五十万円、全額払込済、毎年四月一日から翌年三月三十一日迄を事業年度とする株式会社であり、被告人は同会社の代表取締役として同会社の事業経営一切を統轄主宰していたものであるが、同会社の昭和二十五年四月一日より昭和二十六年三月三十一日迄の事業年度における所得金額は千五百九万二千三百二十二円二十一銭であり、之に対する法人税額は五百二十八万二千三百十円であるに拘らず、被告人は同会社の業務に関し法人税逋脱の目的を以て別紙逋脱額明細一覧表記載の通り木炭費等の架空経費計三百六万千七百二十二円二十一銭を正規帳簿に計上し或は取得車輛及び車輛売上等の取得資産計三百九十九万円を正規帳簿に計上せずして利益の一部を秘匿した上、申告期限後である昭和二十六年六月四日所轄旭税務署長に対し右事業年度における所得金額八百四万六百円、之に対する法人税額二百八十一万四千二百十円である旨虚偽記載の確定申告書を提出する等の詐偽不正の行為により同会社の右事業年度における法人税二百四十六万八千百円を逋脱したものである。

(証拠の標目)(略)

(主張に対する判断)

先ず本案前の主張について判断する。

弁護人等は、

一、本件起訴状の公訴事実として「被告会社は本店を大阪市都島区高倉町四丁目八百十三番地に置き一般貸切旅客自動車運送業、自動車及び部分品の売買加工修繕竝に燃料その他附属品の売買等を営業目的とする資本金七百五十万円全額払込済にして毎年四月一日より翌年三月三十一日迄を事業年度とする株式会社であり、被告人は同会社の代表取締役として同会社の事業経営一切を統轄主宰していたものであるが、昭和二十五年四月一日より昭和二十六年三月三十一日迄の事業年度に於ける同会社の所得金額は二千十一万八千三百円之に対する法人税額七百四万一千四百円であるに拘らず被告人は同会社の業務に関し法人税逋脱の目的を以て正規帳簿に取得資産たる車輛或はその売上げを計上せず或は架空経費を計上する等の方法により利益の一部を秘匿した上、申告期限後である昭和二十六年六月四日所轄旭税務署長に対し右事業年度に於ける所得金八百四万六百円之に対する法人税額二百八十一万四千二百十円である旨虚偽記載の確定申告書を提出する等詐欺不正の行為により同会社の右事業年度に於ける法人税四百二十二万七千百九十円を逋脱したものである」と記載されているにすぎないのであつて、右は訴因の具体性を欠き特定していないので本件公訴はその公訴提起の手続がその規定に違反し無効であるから公訴棄却さるべきものである。なお昭和二十九年十一月十三日の第三回公判期日に於て釈明によつて検察官は逋脱所得額の明細、つまり架空経費及び除外売上等の収益について科目毎に明らかにされたのであるが、この日に始めて有効な公訴提起としての効力をもつにいたつたのである。然しながら本件の起訴は昭和二十九年五月二十九日であり昭和二十五年度の法人税の確定申告書が昭和二十六年六月四日であるから本件公訴は同年六月三日をもつて時効の完成を見たのである故に、昭和二十九年十一月十三日の公訴の追完は時効完成後の公訴提起に外ならないから免訴さるべき筋合であると主張する。

仍てこの点について見ると、凡そ訴因の明示は裁判所に対する関係においては審判の対象乃至範囲を明確にし、換言すれば他の訴因と区別して二重起訴の防止既判力の及ぶ限界を明確にする。同時に被告人に対する関係においては、防禦の対象乃至範囲を明確にしてその防禦権の行使を完からしめんとする要請に基くものに外ならない。訴因の明示は「できる限り日時、場所及び方法を以つて罪となるべき事実を特定する」ことが要求されている(刑事訴訟法第二五六条三項)、「できる限り」といつた表現がなされているところからすれば、日時場所、方法は最少限度の要請である。従つて被告人の防禦権の行使を遺憾なからしめんためには、これに限ることなく犯罪構成要件的特徴を示す事項、構成要件に属する一定の状況等が具体的に示されなければならないことは所論の通りである。租税事件について見るならば、本件法人税逋脱に関しその納付体系を見ると特定事業年度の終了後二ヶ月以内にその年度に於ける総所得額について確定申告をすると同時にその相当税額を納付しなければならない法体制であるから、その訴因には、租税年度、逋脱額の外にその算定の基礎たる所得金額、詐偽その他不正行為の内容、所得の生ずる事業の態様等を明示しなければならないのであり、之を以つて足ると解するのが相当である。

ひるがへつて本件公訴事実の具体的記載を見ると昭和二十五年四月一日から昭和二十六年三月三十一日迄の事業年度を特定し、被告法人の同年度に於ける総所得金額(その税額)を具体的に明示し、申告所得額を明示しているから、逋脱額は算数上当然出て来るから当然に特定され、その逋脱方法詐欺その他不正の行為の説明として正規帳簿に取得資産たる車輛或はその売上を計上せず、或は架空経費を計上する等の方法を特定し更に所得の生ずる事業態様を具体的に明示している以上法律に要請される訴因の明示特定の要件を充足するものといわなければならない。もつとも昭和二十九年十一月十三日の第三回公判期日に於て釈明により逋脱所得額につき架空経費及除外資産が科目別に明らかにされたのであるが、訴因が不特定なるが故に起訴状の追完をなしたというのではなく特定明示された逋脱額を科目別に明らかにしたにすぎないのであつて単なる釈明である。

従つて之をもつて訴因の不特定を明確にし本来無効たるべき訴因が之によつて有効となつたものとは断じ得ないところである。

成程詳細な公訴事実の明示は被告人の防禦権の行使については便利であろう。けれども現行法においては起訴状一本主義を採用して裁判官の事件に対する予断防止を図つている(刑事訴訟法第二五六条六項参照)建前からすると訴因の明示は予断防止との関係において自ら限界がなければならないのである。結局訴因の説明的な収支乃至損益計算の数額の詳細な算定の根基の明示は、却つて現行法の建前に抵触し裁判官に予断を生ぜしめる結果を招くのである。逋脱総額の特定によつて、被告人は既に自己の年間収支は知つている筈であろうし、知らないということ自体その怠慢に基く過失の責むべきものがあるといえようから防禦権の保護に欠くるところがないといわなければならない。以上のように考察して来ると弁護人等の本件公訴提起の手続違背に因る無効を前提とする公訴棄却の申立及び時効完成に因る免訴の主張は何れもその理由がないから採用の限りではない。

二、被告会社は昭和二十五年度の確定申告に対し旭税務署長から昭和二十八年五月三十一日付再更正決定竝に同納税告知書を同年六月五日に受領したが之に対する税額合計金七百四十四万五千七百二十円(無申告加算税重加算税を含む)を同月十日納付しているに拘らず同年八月十二日付告発状を以て大阪地方検察庁に告発され同月二十八日之に基く捜査が開始されて本件公訴に及んでいるのであるが右告発は履行後の事に属し本来無効であり従つて之に因る本件公訴は手続に違反し無効であるから棄却さるべきであると主張する。

仍てこの点について考察すると凡そ租税事件は行政事件に属する。行政事件にはその犯則があつた場合に、当初からその効力保障といつた観点に立つて一般刑事々件と同様に刑事訴追を目的として手続が進行される場合と、飽迄行政目的達成のために行政処分手続が進められその中途から或はその後に於て一般刑事々件として刑事訴追つまり刑罰を目的として刑事処分手続が進められる場合がある。租税犯則事件は後者に属するのである。租税犯則があつたとして当初から刑事処分手続に行かないで、飽迄国家財政の維持確保といつた目的達成のために行政上の調査処分をなし犯則の是正をなすのであるが、行政処分で目的を達成出来ない場合つまり刑事訴追の必要を認める場合には「告発」をなして刑事手続に移行せしめる建前である。従つて租税犯則事件は告発前に於ては単なる行政上の調査処分であり、告発後に見る刑事訴追を目的とする捜査処分ではないから、調査結果によつて更正決定、再更正決定の通告、無申告加算税の通告、重加算税の賦課があつても之等はすべて行政処分であつて刑罰ではないのである。行政処分がなされた後に、告発をなして刑事訴追手続に移行せしめ捜査処分がなされて刑事訴追手続が進められても、行政処分と刑事処分とはその目的を異にし全然別個の機関権能に属するものであるから所謂二重処罰の問題を云為する余地がないと解するのを相当とする。従つて更正決定の通知、履行を間接国税の場合における通告処分、履行と同様に解し二重処分となるから告発を無効とする主張には当裁判所の組し難いところである。仍て告発の無効を主張し本件公訴は訴訟条件を欠くものとして公訴棄却すべきだとする主張はその理由がないから採用しない。

三、除外車輛に関する逋脱罪は何れも既に昭和二十八年五月末日迄に時効完成により公訴権が消滅しているから免訴さるべきであると主張するけれども後に示す判断の通り時効完成を認め得ないから該主張も採用の限りではない。

次に本案の主張について判断する。

一、木油費四十六万円、同二十二万円、同二十万円合計八十八万円については前掲証拠四の(1)中昭和二十五年六月分伝票綴、昭和二十五年十一月分伝票綴四、の(4)、八に徴すれば被告会社において支出がなされていることが明らかであり、検察官は右は何れも架空経費であつて益金に算入すべき利益処分であると主張するけれども証人出尾千代治の当公廷における供述によれば当時牧油業株式会社に関係していた証人が右会社業務の傍ら松根油(木油)の販売をなしていた際架空名儀を使用して被告会社に木油を販売し昭和二十五年六月九日林商店こと林七郎名儀で代金四十六万円、昭和二十五年十一月一日飯田常一名儀で代金二十二万円、同月二十一日飯田常一名儀で代金二十万円の木油を被告会社に納入し代金決済をなした事実を認定することができる。当時油類は統制下にあつて自由取引が禁止されていたことは公知の事実であり自動車運輸事業関係業者はその燃料の入手に狂奔していたことが窺われ本件木油が被告会社の事業上購入されたものである以上必要経費として損金勘定に計上すべきものと断じなければならない。

二、木炭費五十三万八千円、同七十万円、同十五万円、同十九万円、同二十万円、同七万円、同十五万円、同二十万円、同十万円、同十万円以上合計二百三十九万八千円及び交通費二百六十円、雑費百十一円十銭について考察すると、前掲証拠四の(1)中昭和二十六年一月分伝票綴中の一月三十一日付出金伝票、四の(5)(6)四の(1)中昭和二十六年三月分伝票綴中三月四日付出金伝票、四の(3)、四の(1)中昭和二十五年十月三十一日付出金伝票、四の(1)中昭和二十六年二月二十八日付出金伝票二枚、四の(1)中昭和二十五年六月一日付振替伝票、四の(1)中昭和二十五年十二月二十三日付振替伝票、同年十二月三十一日付入金伝票、四の(1)中昭和二十六年三月三十一日付出金伝票二枚、四の(1)中昭和二十五年十一月三十日付振替伝票を綜合すれば、右各金額は何れも被告会社の必要経費として経理計上されていることが明らかである。然るところ前掲証拠四の(3)、四の(1)中昭和二十六年一月分伝票綴中一月三十一日付入金伝票、昭和二十五年十二月分伝票綴中十二月二十一日付入出金伝票、昭和二十六年一月分伝票綴中一月二十五日付振替伝票、一月三十一日付入金伝票、四の(5)(6)八、四の(12)、四の(1)中昭和二十六年一月二十日付振替伝票、昭和二十六年三月分伝票綴中三月四日付出金伝票、四の(22)(23)(24)、四の(2)中昭和二十五年十月分領収書綴四の(1)中昭和二十五年十月分伝票綴、昭和二十六年二月二十八日付入金伝票、

六の(4)中昭和二十五年五月三十一日付領収書、四の8(12)(14)、四の(1)中昭和二十六年三月三十一日付出金伝票、昭和二十六年三月八日付振替伝票、同年二月二十日付振替伝票、昭和二十五年十一月三十日付振替伝票四の(10)(11)、四の(2)中昭和二十六年三月分領収書綴四の(1)中昭和二十六年三月三十一日付振替伝票、四の(16)、四の(17)中昭和二十六年三月三十一日付出金伝票、四の(15)に九、一〇の中尾田丈太郎、長谷川九平、稲垣金治、川端スエ、早石俊吉の当公廷における各供述一一中臼井浅郎に対する検察官作成の供述調書、一五、一七、一八、を綜合すれば、右各金額は何れも被告会社の架空経費であることが認められる、尤も被告人及び弁護人は当時木炭は統制下にあつてその配給は実需要量の一少部分に過ぎないため所詮闇ルートによる入手に依存しなければならぬ実情にあつて右木炭費は全部その代金として出費したもので必要経費であると主張し被告会社に於ても当時相当量の闇木炭を購入していた事実は窺われるのであるが右は昭和二十四事業年度に於ける実情であつて本件昭和二十五事業年度には関係がないこと明瞭である。又交通費二百六十円については自動車賃であると主張するが被告会社の営業は自動車運輸(旅客、貨物)であつて見れば故らに他の自動車を使用することもないと考へるのが相当であり且つ之を首肯するに足る証拠もないから主張を採用し難いところである。次に雑費百十一円十銭については昭和三十四年四月八日付陳述書によれば伏見稲荷神社への御供物等の残額である旨主張されているが伏見稲荷神社への御供物代は被告会社の事業経営上の必要経費とは断じ難く主張自体から単なる利益処分であるから主張を採用しない。

三、旅費一万五千円、同四万円以上合計五万五千円について考察すると、前掲証拠四の(1)中昭和二十六年三月三十一日付出金伝票二枚四の(5)、四の(6)に徴すれば右二口の金額が被告会社の必要経費出金として経理されていることが明らかであり検察官は右は何れも架空旅費であると主張するけれども証人合川収の当公廷における供述によれば、昭和二十六年三月三十一日証人が高士茂と同道して陸運局に接渉のため上京した旅費一万六千円を受領した事実が明かであるから旅費一万五千円の前掲経理は被告会社の必要経費と認定しなければならない。旅費四万円については前掲証拠四の(2)中昭和二十六年三月分領収書綴にも之に見合う領収書がないところからすれば反対の証拠がない限り架空経費と断じなければならない。

四、交際費五万五千円、同四万五千円、同一万五千円、同二十四万四千六百九十一円十一銭、同十万円以上合計四十五万九千六百九十一円十一銭について考察すると前掲証拠四の(1)中昭和二十六年三月三十一日付出金伝票三枚、四の(5)、四の(6)、四の(3)、四の(4)、八に徴すれば右金額は何れも被告会社の必要経費として経理されていることが明らかである。内金四万五千円については証人合川収の当公廷における供述によれば、昭和二十六年一月頃被告会社の寮松原荘における懇親会の費用として出費されている事実を認めることが出来るのであつて右は被告会社の関係者の懇親会であるから右交際費は被告会社の必要経費として損金勘定に計上すべきものと謂わねばならない。けれども爾余の費目については、前掲証拠四の(2)、四の(14)の中昭和二十五年三月三十一日付出金伝票四の(8)に一一の中真柄春枝に対する検察官作成の供述調書を綜合すれば、之に見合う領収書もなく正当経理がなされていないところからすれば反対の証拠がない以上架空経理と断じなければならない。

五、街頭調査費二千九百五十円、同一万五千二百五十四円、同一万二千円以上三万二百四円について考察すると、前掲証拠四の(5)、四の(6)、四の(1)中昭和二十六年三月三十一日付出金伝票三枚に徴すれば、右金額は被告会社の必要経費として経理されていることが明らかである。然るところ、証人藤繩純三の当公廷における供述によれば、同証人は被告会社の街頭調査員なるところその調査費として被告会社から昭和二十六年二月末頃二千九百五十円、同年三月三十一日一万二千円合計一万四千九百五十円の支給を受けた事実が明らかであるから右二口合計一万四千九百五十円は被告会社の必要経費であり損金勘定に計上すべきものであるといわねばならない。一万五千二百五十四円の街頭調査費については前掲証拠四の(2)に徴し之に見合う領収書がないところから正当経理と謂い難く反対の証拠がないかぎり架空経費の計上と断じなければならない。

六、負担金二万八千円について考察すると前掲証拠四の(1)中昭和二十六年三月三十一日付出金伝票、四の(5)、四の(6)に徴すれば右金額は被告会社の必要経費として経理されていることは明らかである。検察官は架空経費と主張するけれども証人中山基明の当公廷における供述(昭和三十二年十二月十六日第四十回公判調書)によれば、右金員は大阪乗用自動車組合の負担金であることが認められる。右は被告会社の必要経費として損金勘定に計上すべきものであるといわなければならない。

七、会議費一万八千円について考察すると前掲証拠四の(1)昭和二十六年三月三十一日付出金伝票、四の(5)、四の(6)に徴すれば右金額は被告会社の必要経費として経理されていることが認められる。検察官は右金額は架空経費であると主張するけれども証人川本定郎の当公廷における供述(昭和三十二年十月四日第三十八回公判調書)によれば右金員は被告会社の営業の現業部長の会合に支出された事実が認められ右会合は業務上の連絡及び能率の増進を主目的とするものであるから被告会社の営業上の必要経費であつて損金勘定に計上すべきものであると断じなければならない。

八、薪費十万円について考察すると、前掲証拠四の(6)八に徴すれば右金額は被告会社の必要経費(薪費)として経理されていることが明らかである。けれども川崎秀二に対する大蔵事務官作成の質問顛末書及び当裁判所の昭和三十二年十月二十九日付証人尋問調書によれば、右金額は川崎秀二の亡父川崎克の墓地建設資金として昭和二十五年八月二日寄贈されたものであつて薪の取引代金として支払われたものでない事実を認定することができる。従つて右金額はその支出自体利益処分であつて必要経費として損金勘定に計上すべき筋合のものでないから必要経費なりとする被告人及び弁護人の主張は採用しない。

九、事故費四万三千四百六円について考察する。前掲証拠四の(15)、四の(1)中昭和二十五年八月二十五日付入出金伝票、八に徴すれば右金額は被告会社の事故費として必要経費に計上されているが証人笠脇耕一の当公廷に於ける供述(昭和三十三年一月二十三日第四十一回公判調書)に依れば事故費を支出したことはない事実が明らかであるから右事故費としての金額は架空のものであると断じなければならない。

十、広告費五万円について考察する。前掲証拠四の(1)中昭和二十六年一月分伝票綴の中昭和二十六年一月二十九日振替伝票四の(6)に徴すれば右金額は被告会社の広告費として必要経費に計上されているが、名手文次郎に対する検察官作成の供述調書によれば、盆、正月に三千円乃至五千円程度の広告費は受取つたことがあるが、その他に五万円の広告費を受取つた事実がないことが明らかであるから右広告費としての金額は架空のものであると謂わなければならない。

十一、車輛売上七十五万円、同四万円、同百五十万円、以上合計二百二十九万円について考察する。

先ず七十五万円の関係について審究すると検察官は右は被告会社が合資会社都島自動車商会に対する車輛売上による未収金を除外して利益の削減を図るため年度末にこれに見合う高士良治、合資会社都島自動車商会間の架空取引の計上であると主張するが、成程前掲証拠陸運事務所関係書類綴によれば被告会社が右合資会社都島自動車商会に売却し被告会社が車輛検査申請竝に登録申請をしているのであるけれども前掲証拠四の(17)中昭和二十六年三月三十一日付振替伝票、四の(15)、一六及び押収に係る領収書綴一冊(裁領第18)に証人高士良治の当公廷における供述(昭和三十四年一月十六日第五十四回公判調書)を綜合すれば、右関係自動車三台(一九三七年型フオード乗用車大二七〇〇七号、二七〇〇八号、二七〇〇九号)は高士良治個人が手持の金で三重県伊賀上野在の中森よしおなるものから計七十五万円で買入れ、之を昭和二十六年三月三十一日同人から都島自動車商会に一台につき二十五万円計七十五万円で売却したものである事実、之に見合う正当な経理がなされている事実、右自動車は無籍車であるため、その検車及び登録の便宜上一先づ被告会社の車籍を利用した事実を認定することができる。従つて本件七十五万円の車輛売上代金の販属は被告会社とは何ら関係がないものと断じなければならないから之を被告会社の資産に計上する謂われがない。

除外車輛売上四万円の関係について見ると、被告人及び弁護人は、右は元来都島自動車学校所有の小型三輪車であつたが昭和十六年右自動車学校が休校となるに及んでその検査証を返納して倉庫に格納していたところ畑中新之助が木炭の運送のため被告会社の名義で受検して使用したがその修理に一万五千円を支出して居り実質上は自動車学校と畑中の共有物件である旨主張しながら、之を畑中の所有物件であると主張を変更し(弁論要旨参照)之に副う反証畑中新之助の当公廷に於ける供述があるが、被告人高士政郎に対する昭和二十七年六月十六日付大蔵事務官作成の質問顛末書によれば右は被告会社の経営する都島自動車学校の所有物件であると陳述して居り、その主張、立証に一貫性がないから当裁判所の輒く措信し難いところであり結局前掲証拠四の(8)、八、四の(14)中昭和二十五年一月二十八日付入金伝票七の(1)、四の(1)昭和二十五年一月二十八日付、同月二十九日付出金伝票、四の(14)中昭和二十五年十一月九日付入金伝票、同出金伝票二枚四の(19)、四の(27)に二〇、二一を綜合すれば、本件小型三輪車は被告会社の所有物件であつて之を近畿自動車株式会社へ譲渡しながらその車輛の譲渡対価を除外したものである。その経緯について見ると、昭和二十五年一月二十六日資本金一千万円で設立された近畿自動車運送株式会社はその設立にあたつて大阪農業信用協同組合連合会から資本金全額を借受け所謂預合によつて設立されたものであるが右金額は設立後同月二十八日に返済したものであつて、従つて同会社は実質的な資本金がなく車輛買入の資金がないに拘らず同月二十八日右資本金全額を引出した如く経理し同月二十九日右資金をもつてダツトサン貨物自動車、トヨダ代燃車各一台を買入れ同年十一月九日右ダツトサンを高士良治に二十六万円、トヨダ代燃車を出尾千代治に四十八万円で夫々転売した如く架空経理し而して以上計七十四万円を同日直ちに引出し大阪日産自動車株式会社から日産トラツク一台七十万円で又畑中新之助からくろがね号小型三輪車を四万円で買入れ夫々現金で支払つた如く経理されているのであつて、結局右小型三輪車は被告会社が右近畿自動車運送株式会社へ譲渡したものであつてその譲渡対価を除外して資産の削減をなしたものであることが認定できる。

次に車輛売上百五十万円の関係について考察すると弁護人及び被告人は右金額は車輛番号大二一八〇〇号一九三八年型シボレー及び車輛番号大二一八〇一号一九三七年型シボレーの二台の取引に関するものであるが右自動車は何れも高士政郎個人のものであつて之を堀江タクシーに売買したものであり被告会社と無関係であると主張するけれども前掲証拠四の(27)、一四、一九、及び西脇幸次郎に対する検察官作成の供述調書を綜合すると大二一八〇〇シボレー乗用車は車台番号一八一七四六号、機関番号三八二四三四号として車輛検査及び登録申請がなされ、右機関は被告会社が内田辰次郎から昭和二十六年二月十四日買入れ被告会社が所有する車台番号不明の車に取付け堀江タクシー株式会社に譲渡したものであり又大二一八〇一号も被告会社が右内田から右同日八〇七五五一号の機関を買入れ被告会社が所有していた車台番号不明の車にこれを取付け右堀江タクシー株式会社に譲渡したものであることが明瞭である。従つて右車輛の売上金は何れも被告会社に販属しその益金として計上すべきであるに拘らず之が売上の除外をなして資産の削減をなしたものと断じなければならない。

十二、雑収入(除外車輛)三百二十五万五千円について判断する。

右は、

(1)  大二一八〇二号   五十二万五千円

(2)  大二一八〇四号   二十四万五千円

(3)  大二一八〇五号   五十二万五千円

(4)  大二一八〇六号   二十四万五千円

(5)  大二一八〇七号   五十二万五千円

(6)  大二一八〇八号   四十二万円

(7)  大二一八〇九号   五十二万五千円

(8)  大二一八〇三号   二十四万五千円

計 八台  三百二十五万五千円

に関するものであるが、検察官は右は被告会社の簿外車輛であつて之を堀江タクシー株式会社に売却しながら益金に算入しなかつたものである旨主張する。成程陸運事務所関係書類綴によれば右車輛は被告会社名義をもつて登録申請がなされ登録後堀江タクシー株式会社に譲渡されているけれども証人田島錦治に対する昭和二十九年五月十九日付検事作成の供述調書、同証人の当公廷に於ける供述(昭和三十三年十一月二十二日第五十三回公判調書)及び自動車貸借契約書竝に被告人高士政郎に対する大蔵事務官作成の昭和二十七年六月十七日付質問顛末書を綜合すると、右車輛は何れも無籍車であつて田島錦治の所有物件なるところ、被告会社に於て昭和二十六年二十輛の営業台数増加の許可を受け四ヶ月以内に増車分を補充の上検査を受ける条件付であつたため一時田島錦治所有の右車輛のうち(1)乃至(7)を昭和二十五年六月二日借受け被告会社所有に係る稼動車のボデー或はエンジン及び補助エンジン等を乗換えた上車輛検査を受けた事実、受検後もとに取戻したものの使用不能のものであつたが昭和二十五年十二月二十日堀江タクシー株式会社がタクシー二十輛の営業許可を受け昭和二十六年四月十九日迄に全車輛の補充がなければ営業権が失効する条件のものであつたため(1)乃至(7)を(8)と共に全部堀江タクシー株式会社に譲渡手続を取り、何れも未完成車であるため昭和二十六年六月二十九日頃から完成に着手して完成の都度右堀江タクシーに納入した事実を認めることができる。従つて右八車輛は一時被告会社の名義を使用し被告会社から堀江タクシー株式会社に譲渡手続が採られているが実質は田島錦治から堀江タクシー株式会社へ譲渡したものであるから被告会社の経理には無関係のものと断じなければならない。

十三、雑収入(除外車輛)二百四十五万円について考察する。

右金額はトヨペツトシヤーシー五台に関するものであるが、被告人及び弁護人はこのトヨタ自動車株式会社より買入れた五台は、それより以前被告会社が高士良治より借用していたシボレー五台と交換したものであつて除外車輛でないと主張し之に副う証人高士良治の当公廷に於ける供述(昭和三十四年二月六日第五十五回公判調書)があるがこの点に関する同証人の証言は後記証拠と比照して輒く措信し難く却つて前掲証拠四の(1)、四の(6)、一六、二、四の(27)、一五、二二、を綜合すると、被告会社では昭和二十六年二月二十八日大阪トヨダ株式会社からトヨペツトシヤーシー五台を二百四十五万円で購入しこれを車輛勘定に計上しながら、本件確定申告に際して添付の公表精算書、貸借対照表の車輛勘定明細書中には右五台の車輛について資産計上がないのである。

寧ろ会社帳簿に関係のない大二一五八五号、大二一五八九号、大二六〇七号、大二一六〇八号、大二一六〇九号を各四十九万円計二百四十五万円で買入れたごとく計上されている。けれども右五台の車輛の検査竝に登録申請書類に徴するとその取付エンジンとして記載された番号のエンジン、車台の譲渡人新潟交通株式会社、大阪交通株式会社、大一商会こと南平大作、山本重雄、大阪旅客自動車組合の被告会社宛の譲渡証明書に明らかな如く右五台の車輛は被告会社がこれより以前取得所有していたものである事実が明らかである。

従つて本件トヨペツトシヤーシー五台の車輛は被告会社が故らに資産収入から除外して資産勘定の削減を図つたものであると断じなければならない。

(結論)

叙上の判断によつて被告会社は別紙費目別逋脱額累計表記載の通り木炭費等の架空経費計三百六万千七百二十二円二十一銭を計上し或は取得車輛及び車輛売上等の取得資産計三百九十九万円を計上せずして合計七百五万千七百二十二円二十一銭を故らに被告会社の昭和二十五年四月一日から昭和二十六年三月三十一日迄の事業年度における所得金額の削減をなしたものと謂わなければならない。

仍て被告会社の前掲事業年度における総所得金額は千五百九万二千三百二十二円二十一銭(7.051.722.21+8.040.600.00=15.092,322.21)でありその法人税額は五百二十八万二千三百十円(15.092.322.21×35/100=5.282.310)であるから申告法人税額二百八十一万四千二百十円を控除した二百四十六万八千百円の法人税を逋脱したものであると断じなければならない。

(法令の適用)

被告人高士政郎の判示所為は昭和三十二年法律第二十八号改正法人税法附則第十六号、改正前の法人税法(昭和二十五年法律第七十二号)第四十八条第一項罰金等臨時措置法第二条第一項に該当するので所定刑中罰金刑を選択し、被告都島自動車株式会社についてはその代表者たる被告人高士政郎が会社業務に関し前示法人税法第四十八条の違反行為をなしたので法人税法(昭和二十五年法律第七十二号)第五十一条に則り同法第四十八条第一項罰金等臨時措置法第二条第一項所定の罰金刑を科すべきものとし以上被告人及び被告会社に対しては叙上所定罰金額の範囲に於て主文第一項掲記の各刑を量定して処断すべきものとし被告人高士政郎に於て右罰金を完納することができないときは刑法第十八条第一項に則り金三千円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置すべきものとし訴訟費用の負担については刑事訴訟法第百八十一条第一項本文を適用して全部被告会社をして負担せしむべきものとする。

仍て主文の通り判決する。

(裁判官 竹沢喜代治)

逋脱額明細一覧表

番号

費目

金額

備考

1

木炭費

五三八、〇〇〇

〇〇

架空

2

木炭費

七〇〇、〇〇〇

〇〇

架空

3

木炭費

一五〇、〇〇〇

〇〇

架空

4

木炭費

一九〇、〇〇〇

〇〇

架空

5

木炭費

二〇〇、〇〇〇

〇〇

架空

6

木炭費

七〇、〇〇〇

〇〇

架空

7

木炭費

一五〇、〇〇〇

〇〇

架空

8

木炭費

二〇〇、〇〇〇

〇〇

架空

9

木炭費

一〇〇、〇〇〇

〇〇

架空

10

木炭費

一〇〇、〇〇〇

〇〇

架空

11

旅費

四〇、〇〇〇

〇〇

架空

12

交通費

二六〇

〇〇

架空

13

雑費

一一一

一〇

架空

14

交際費

五五、〇〇〇

〇〇

架空

15

交際費

一五、〇〇〇

〇〇

架空

16

交際費

二四四、六九一

一一

架空

17

交際費

一〇〇、〇〇〇

〇〇

架空

18

街頭調査費

一五、二五四

〇〇

架空

19

事故費

四三、四〇六

〇〇

架空

20

公告費

五〇、〇〇〇

〇〇

架空

21

薪費

一〇〇、〇〇〇

〇〇

架空

22

車輛売上

四〇、〇〇〇

〇〇

除外

23

車輛売上

一、五〇〇、〇〇〇

〇〇

除外

24

雑収入

二、四五〇、〇〇〇

〇〇

除外車輛

費目別逋脱額累計表

番号

費目

金額

備考

1

木炭費

二、三九八、〇〇〇

〇〇

架空経費

2

旅費

四〇、〇〇〇

〇〇

架空経費

3

交通費

二六〇

〇〇

架空経費

4

雑費

一一一

一〇

架空経費

5

交際費

四一四、六九一

一一

架空経費

6

街頭調査費

一五、二五四

〇〇

架空経費

7

事故費

四三、四〇六

〇〇

架空経費

8

公告費

五〇、〇〇〇

〇〇

架空経費

9

薪費

一〇〇、〇〇〇

〇〇

架空経費

以上小計

三、〇六一、七二二

二一

10

車輛売上

一、五四〇、〇〇〇

〇〇

除外収入

11

雑収入

二、四五〇、〇〇〇

〇〇

除外収入

以上小計

三、九九〇、〇〇〇

〇〇

総計

金七〇五万一、七二二円二一銭

以上

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